令和7年(2025年)の確定申告は2月17日からはじまる。国税OB税理士の飯田真弓さんは「会社員でも確定申告で取り戻せるお金があるので制度を知ることが大切だ。例えば、住宅ローン控除の令和6年分の『改正点』には気をつけたほうがいい」という――。
会社員でも申請を忘れると大損…
今年も確定申告の時期がやってきた。
筆者はかつて26年間、所轄の税務署で勤務していた。確定申告では、いろいろな人の申告納税相談を担当した。
いわゆる“反社”の人が筆者の相談ブースに座り、
「ねぇちゃん、確定申告って、なんぼ税金払ろたらええんか教えたってくれるかぁ⁈」
と、凄まれたこともある(詳しくは、拙著『税務署はやっぱり見ている。』、日本経済新聞出版)。
会社員の場合は、勤務先で年末調整をしている人が多い。しかし、確定申告は「自分には関係ない」と思っていると、気づかぬ間に大損しているかもしれない。
例えば、住宅取得等特別控除(以下、住宅ローン控除)を申告する1年目の人(2年目以降は年末調整で申告可)は年末調整の対象外となり、自分で確定申告をする必要がある。
なぜA氏は、住宅ローン控除を受けられなかったのか
住宅ローン控除の還付申告では、こんなエピソードがある。
会社員のA氏は住宅ローン控除を受けるため、1日会社を休んで税務署の申告会場にやってきた。申告は昼までに終わるだろうし、久しぶりに家族でちょっと豪華なランチでもしようと家族全員を連れて出かけた。
しかし、会場は予想に反して混んでいた。A氏は妻と子どもたちを駐車場に停めた車の中で待たせていたが、準備が回ってきた時はとうに正午を過ぎていた。
A氏は担当の筆者の前に座ると、必要書類が入った封筒を机に叩きつけるように置いた。イライラがマックスの様子だった。
「それでは確認をさせていただきます」
筆者は、できるだけ平静を装いながら封筒の中から書類を出し、内容の確認を始めた。
数分後……。
【飯田】あの~、申し訳ないんですけど、こちらの申告書、受付することができないようです。
【A氏】えっ、なんでや?
【飯田】今、登記事項証明書を確認させていただいたんですが、床面積の要件を満たしていないんです。
【A氏】はぁ、何、言うてんねん。建売業者の担当のやつは住宅ローン控除できるって言うてたぞ!
【飯田】そう言われましても……。この欄に49m2と記載されているので……。
【A氏】自分、どれ見てんねん。それと違うがな。こっちやろ。この書類に50m2って書いてるやないか。ちゃんと確認しろ!
【飯田】大変申し訳ありません。こちらの書類は売買契約書ですよね。床面積については、登記事項証明書で確認することになってるんです。
【A氏】登記⁇ なんやそれ? あかん! お前では話にならん。上のモン呼んで来い! おい、署長だせ、署長‼
A氏が、声を荒げたので、受付業務を行っていた上司が駆けつけた。
骨折り損のくたびれもうけに…
筆者が状況を説明すると、上司は、一枚の小さな紙片を手に取り、A氏に見せた。
【上司】説明が至らなくて、申し訳ありません。今、こちらの源泉徴収票を確認させていただいたところ、源泉徴収税額が0円なので確定申告書を提出されたとしても還付金は0円ということになります。
A氏】……。
上司が続ける。
【上司】それから、来年以降、源泉徴収税額に金額が発生することがありましても、先ほど、飯田(筆者)が申した通り、床面積の要件を満たしておりませんので、住宅ローン控除には該当しないということになります。長い時間、待っていただいたのに申し訳ありませんが、ご理解いただき、お引き取り願えますでしょうか。
A氏は、返す言葉を失い、机に広げた書類を鷲掴みにすると会場を出ていった。
A氏は、還付金額を確認し午後からは、家族と一緒に楽しい時間を過ごすつもりが、骨折り損のくたびれもうけになってしまった。
「居住の用に供した日」とは、いつなのか
A氏のエピソードは30年前の話だが、床面積は今も登記事項証明書で確認することになっている。床面積基準は変わらず、原則50m2以上だ。売買契約書にも床面積は記載されているだろうが、売買契約書で確認すべき事項は建物の価格や取得年月日なのだ。
住宅ローン控除に添付書類が、たくさん掲げられているのは、それぞれに確認すべき事項があるからだ。
住民票では建物を取得して6カ月以内に居住の用に供しているかを確認する。住宅ローン控除は真に“住むための家”を取得することに困っている人を救済するための税額控除であり、セカンドハウスや、他に住むことができる家を持っている人には、ローンを組んでいたとしても控除を受けることがないように設計されているのだ。
「居住の用に供している」という表現。耳慣れない表現だと思われたのではないだろうか。
住宅ローン控除は、入居した年分によって要件が違ってくる。住民票が添付書類になっているので、「入居した日=住民票の異動日」と思いがちだが、「居住の用に供した日」とは、住民票の異動日ではなく実際に住んだ日を指す。
令和6年分の住宅ローン控除で注意すべき「改正」とは
先に床面積は原則50m2と書いた。原則があれば例外がある。令和6年分の住宅ローン控除は床面積の改正があったのだ。
一定の条件を満たしていれば、40m2以上50m2未満の床面積であれば、住宅ローン控除に該当するというものだ。
その条件というのは、合計所得金額が1000万円以下の場合だ。
B子は今年40歳の会社員。管理職になり責任も重くなったが、それなりに仕事は楽しく、このまま定年まで働き続けたいと思っている。B子はネットニュースや人の噂話に興味がない。給湯室で長々と無駄話をしている女性社員をいつも横目に見ていた。年収はもう少しで1000万円に手が届くというところ。合計所得金額にすると、800万円になる。いつまでも家賃を払って賃貸マンションに住んでいるより、“自分の城”を手に入れたいと考え物件を探していた。令和5年10月、B子は念願叶って、2LDK(40m2)の新築マンションを3000万円で購入した。
自己資金100万円、住宅ローン2900万円を30年間で返済する予定だ。
会社員B子(40)は、お金を取り戻せるのか?
令和5年の年末、B子は数年ぶりに実家に帰った。年が明けてすぐに新居で生活できるように、引っ越し業者に荷物を運んでもらったのは令和5年12月29日だった。
令和6年の初出勤が1月4日だったB子は、その前日である令和6年1月3日から新居で住みはじめた。
役所に行って転入手続きに行ったのは令和6年1月5日。
届出用紙には、異動年月日と届出年月日を記入する欄があった。
B子はその時、深く考えることなく、異動年月日に令和5年12月29日と記入し、届出年月日の欄には令和6年1月5日と書いた。
さて、ここで問題を出そう。
B子は、住宅ローン控除を受けることができるのだろうか?
住宅ローン控除は引っ越しが年をまたぐ場合、注意が必要だ。
B子の場合、居住の用に供した日を令和5年12月29日だとすると、令和5年分の床面積基準は50m2以上なので住宅ローン控除は受けられない。
一方で居住の用に供した日を令和6年1月3日だとすると、令和6年分改正の床面積基準40m2以上50m2未満に該当し、合計所得金額が1000万円以下という条件も満たしているので、住宅ローン控除を受けることができる。
これを証明できれば、B子は控除を受けられる
正解は、B子は、実施に入居した日が令和6年になってからということを証明できれば、令和6年分で住宅ローン控除を受けられることになる。
税務行政の中で「社会通念上」や「総合勘案」という言葉があるのだが、B子の場合、この判断に委ねることになる。流れから、「令和6年居住の用に供した」と言えるだろう。
居住の用に供した日を証明するものとしてはガスの開栓証明や公共料金の支払いなどで証明すればよい。
令和6年中に50万円返済し、借入残高が2850万円の場合、
2850万円×0.7%=19万9500円
B子の令和6年分の所得税の源泉徴収税額が19万9500円以上あれば、令和6年分は19万9500円還付されることになるのだ。
住宅ローン控除は租税特別措置法であるため、これまで何度も改正されてきている。
改正が多過ぎで理解が追いつかないという意見もあるだろうが、社会の移り変わりに応じた税務行政を執行するという点では評価すべきことだと思う。
居住の用に供した年分ごとに扱いが異なる住宅ローン控除について、少ない紙面ですべてを説明することは不可能だ。しかし、住宅を購入しローンを組んだが住宅ローン控除を受けていないという方は、もしかすると、B子のように、控除を受けられる場合があるかもしれない。
国税OB税理士が解説「申告書作成の手順」
送信までできなくてもとりあえず申告書を作成したいと思っているのに、スマートフォンだと申告書の作成の入り口で止まってしまったという人が多いようだ。パソコンならマイナンバーカードがなくても申告書を作成することができる。
令和6年分だけではなく、過去の年分についても申告書の作成ができるので、申告しそびれたかも、という人はやってみるといいかもしれない。
以下、簡単に手順を示してみよう。
「共通トップ 国税庁 確定申告書等作成コーナー」を検索
↓
「国税庁 確定申告書等作成コーナー 令和6年分 作成コーナートップ」が表示される
↓
「申告書等を作成する」の項目で黄色字に緑の文字の「作成開始」をクリック
↓
「税務署への提出方法の選択」のページが表示される
↓
「提出方法に関する質問」
〈・マイナンバーカードをお持ちですか。〉の項目で
「いいえ」をクリック
↓
「提出方法の選択」が表示される
↓
「書面」をクリック
↓
「確認」のボックスが表示されるが「このまま進む」をクリック
↓
「~書面申告を選択された方へ~」のページが表示される
①年齢
②職業
③確定申告は初めてですか?
④書面提出を選択した理由を次の中からお選びください
すべてに回答し、
「このまま進む」をクリック
↓
「確認のボックスが表示されるが「このまま進む」をクリック
↓
「申告書等印刷を行う前の確認」が表示される
↓
「利用規約に同意して次へ」をクリック
↓
「作成する申告書等の選択」のページが表示される
↓
「国税庁 確定申告書等作成コーナー」より
このページまでたどり着くことができれば、還付申告をしたいと思う年分の源泉徴収票を片手に入力しながら、実際に自分が確定申告して還付金が得られるのかどうかを検証することができるはずだ。あちこち見なくてもその年分のことだけが説明してあるので、わかりやすいと思う。
ただし、サイトの仕様が変更になってしまったら使えなくなるかもしれないので、その際はご容赦願いたい。
調べてもわからなければ、税務署に問い合わせる
【令和6年分住宅借入金等特別控除のチェック表】では、令和6年分の住宅ローン控除について一通りの内容が説明されている。この用紙を見ながら、わからない用語について検索すると、令和6年分については理解しやすいと思う。
もっと詳しく知りたいという人は塚本和美『令和7年3月申告用 住宅ローン控除・住宅取得資金贈与のトクする確定申告ガイド』(清文社)がわかりやすいので、一読されるとよいかもしれない。
インターネットの普及により、居ながらにしてさまざまな情報を得ることが可能になった。
確定申告についてもいろいろな情報が発信されている。
あれこれネットで検索しても、同じような話で「その先が知りたいのに!」ともどかしく感じることもあるだろう。
国税庁のHPは、最近はかなり見やすくなってきている。
あちこちに、リンクが飛んで知りたい情報に辿り着くまで時間がかかるかもしれないが、国税のことは国税庁のHPで確認し、わからなければ税務署に問い合わせるのが賢明だろう。
確定申告書は、期限を過ぎても受け付けてくれる?
さて、あなたは、住宅ローン控除で確定申告をする場合、e-Taxで行うだろうか。書類に不備があったら困るから、目の前でチェックしてもらうために税務署に持参したい派だろうか。今年も休日特設会場が設置されるようだが各会場、相当混雑すると思われる。
期限内申告にこだわらないのであれば、3月18日以降に提出するのもアリだろう。4月に入ってからであれば、各税務署は通常の落ち着きを取り戻し、ゆったりと相談できるかもしれない。
予約を要する税務署もあるようなので、相談に行こうと思う税務署に問い合わせてみるとよいだろう。
B子のオフィスの給湯室からこんな声が聞こえてきた。
【C子】住宅ローン控除って、去年入居した人は、床面積が40m2以上50m2未満でも受けられるんやって!
【D子とE子】へ~、そうなんやぁ……?
【C子】んっ、まぁ、知らんけど……(笑)
「知らんけど」と適当な会話で終わらせず、
「ほら、この記事にちゃんと書いてるよ!」
と、C子がこの記事の情報を正確に伝えるように話をしてくれれば、まわりまわってB子の耳にもこの記事の内容が届くかもしれない。
住宅ローン控除の立法趣旨や今までの流れ、現状、これからについての流れを知ることは、今後、住宅を購入する際に有効な情報となるだろう。
オフィスの給湯室の無駄話に終わることなく、多くの方の役に立つ情報としてこの記事が拡散され、B子が無事、令和6年分の住宅ローン控除の申告を済ませ、19万9500円得することを願うばかりだ。
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